大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)5236号 判決
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〔判決理由〕二、そこで本件契約が解約によつて終了したとする被告の抗弁について判断する。
被告が昭和四四年六月五日原告に対し本件契約の解約申入をしたことは当事者間に争がなく、証人石川益緒の供述によると、被告は昭和四四年五月一九日営業不振のため「ニュー・ヴィクトリア」を閉鎖したのであるが、同年七月一日から新店舗で同種の営業を再開する予定であつたところ、予定していた新店舗の敷金、賃料等が高過ぎるため、右開店計画を中止せざるを得なくなつたので、おそくとも同年六月一日までには原告にその旨を告げ、原告の新しい出資先としてビー・エンド・ビーを紹介した上、同月五日右解約申入をするに至つたことが認められる。
ところで、<証拠>によると、本件契約書には、第五条として、「原告ならびに被告は、本件契約期間終了の三ケ月前に契約の更新、解約を申入れることができる。又原告は契約期間中の中途解約については、原則としてできないが、被告の許諾ある場合は原告、被告が協議することができる。ただし、この場合中途解約により被告に損害が生じたる場合は、原告は損害相当額の賠償請求に応じなければならない。」との規定があるけれども、右以外に、被告からする解約については何らの明示の約定もなかつたことが明らかである。被告および原告は、右のような本件契約中の解約に関する定めを前提として、被告の解約権の存否およびその要件について種々の主張をしているが、当裁判所は、本件契約は期間の定めのあるものではあるが、以下のような要件のもとに解約できると解すべきものと考える。すなわち、前記当事者間に争のない請求原因第2項の事実と前掲甲第一号証によれば、本件契約は、いわゆる典型契約中の雇傭契約そのものとはいえないが、もつとも雇傭に類似するものと認められるから、使用者側からの解約権については、主として民法の雇傭に関する規定、労働基準法の労働契約に関する規定等を類推するのが相当である。そこでこれらの規定をみるに、使用者は、契約に期間の定めがある場合においても、労働基準法第二〇条第一項但書に規定する「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由」がある場合は、即時解雇ができ、また民法第六二八条にいわゆる「己ムコトヲ得ザル事由アルトキ」は労働基準法第二〇条第一項本文にしたがい、少くとも三〇日前に予告をし、または三〇日分以上の平均賃金を支払うことにより解雇することができ、(この場合民法第六二八条但書の損害賠償は、三〇日分の給料または予告手当を支払うべきものとする以上問題にならない。)、その他、民法第六二六条同第六三一条によつても解除することはできるけれども、何らの理由もなく解約をすることはできないと解される。したがつて、本件契約においても、被告主張のような無条件の即時解雇が許されないことは明らかであるし、また証人石川益緒、同直川雄および被告代表者の各供述によれば、大阪市内の飲食店とバンドマンとの間の出演契約において、期間の途中で飲食店側から解約する場合、一ケ月前に予告し、その間の報酬を支払うことによつて解決する例が多いことは認められるが、未だそれがいわゆる事実たる慣習となつていることを認めるに十分な証拠はないから、被告が第二次的に主張するように、何らの事由がなくとも一ケ月の予告期間をおくことにより解約できると解することは相当ではない。さらに、原告は仮定的に、本件契約が当事者の一方の意思のみにより節約できるとすれば、前記の本件契約第五条第一項を類推して三ケ月の予告期間を必要とする旨主張するが、右条項は期間満了の際に特段の事由なく更新を拒絶しようとする場合の規定であつて、期間の途中においても何らの理由もなく解約し得ることを認めた趣旨とは考えられず、したがつて前記の要件のもとにおける解約について右予告期間の点のみを類推することも相当ではないから、右原告の主張も採用できない。
そこで本件の解約申入が前記の要件に合致するか否かについて考えるに、前に認定したように、被告は、「ニュー・ビクトリア」を営業不振のため閉鎖し、新店舗開設の計画も挫折し、バンド演奏が不要になつたため解約申入をしたものであつて、右事情は天災事変その他これらに準ずる程度の不可抗力にもとづくものではないことはもちろん突発的に起つたものでもないから、労働基準法第二〇条第一項但書所定の事由に該当するとはいえない。しかし、だからといつて、事業の継続が不可能となつて原告から何らの労務の提供も受けることができなくなつた状態のままで契約の存続を強いることは酷であるから、右のような事情は前記の「己ムコトヲ得サル事由アルトキ」に該当すると解するのが相当である。もつとも、民法第六二八条自体の解釈としては、同法第六三一条等との関係から右のように解することについて異論がないわけではないが、本件契約が純然たる雇傭契約ではないこと、大阪市内における飲食店とバンドマンとの間の出演契約の解約について前記のような方法で解決する例が多く、原告本人が供述するように、原告自身も当初は一ケ月分の報酬の差額を貰えば解約に応じてもよいと考えていたこと等の事情は、少くとも本件契約に関する右の解釈を支持するに足りるというべきである。
ところで、労働基準法第二〇条第一項本文の場合において、使用者が予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の三〇日の期間を経過するか、または通知の後に予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解される(最高裁昭和三五年三月一一日判決、民集一四巻三号四〇三頁参照)ところ、被告が解約申入までに原告に対し、新しい出演先としてビー・エンド・ビーを紹介し、その報酬額についても交渉して一日金一万三、五〇〇円と定めたことは原告の認めるところであり、証人石川益緒の供述によれば、被告は本件契約上の報酬額と右報酬額との差額を原告に支払う旨を約したが解約申入と同時には支払わず、同年六月二五日の給料日に同日までの右手取報酬差額金四五万円から被告が原告に対し一ケ月金三万円宛返済を受ける約定で貸与したいわゆる準備金の残金一八万円をさしひいた金二七万円よりさらに五万円少い金二二万円を交付したにすぎず、予告手当を完済していないことが認められるから、本件契約は予告期間の満了する同年七月五日まで存続することとなる。
三、なお、被告は、昭和四四年六月五日合意解除により本件契約が終了したと主張するが、証人石川益緒の供述中右主張に合致する部分はにわかに措信できず、その他これを認めるに足りる証拠はない。
四、しかるところ、原告が昭和四四年六月二七日被告に到達した書面で、原告主張のような催告および条件付の本件契約解除の意思表示をしたことは当事者間に争がない。前記のように、被告が昭和四四年六月二五日原告に支払つたのは金二二万円であるが、前記準備金中被告において相殺し得る金員は約定の割賦金三万円である(証人石川益緒の供述によれば、契約終了の際には残金全部について相殺して清算し得ることが認められるが、六月二五日には未だ契約は終了せず、また被告がさらに原告に支払うべき報酬金が右準備金残金を超えることは明らかである)から、同日被告が原告に支払うべき金額は、同日までの手取報酬差額金四五万円から右金三万円をさしひいた金四二万円であり、被告は原告が支払を催告した金二〇万円について履行遅滞にあつたというべく、被告が催告期限である同年六月三〇日までに右金員を支払わなかつたことは当事者間に争がないから、本件契約は同日限り解除により終了したといわねばならない。
(大西勝也)